世界農業遺産とは何か
国連食糧農業機関(FAO)が提唱する「世界農業遺産」
“農業版世界遺産”の正式名は、『世界重要農業資産システム』(GIAHS)という。これは、平成14年(2002年)に国連食糧農業機関(FAO)〔本部ローマ〕が開始した仕組みで、その土地の環境を生かした伝統的な農業・農法や、農業によって育まれ維持されてきた土地利用、技術、農村文化や風習、風景、それを取り巻く生物多様性の保全を目的として、世界的に重要な地域を国連食糧農業機関( FAO )が認定するものである。換言すれば、次世代に継承すべき重要な伝統農業(林業・水産業を含む)や生物多様性、伝統知識、農村文化、農業景観などを全体として認定し、その保全と持続的な活用を図るものとなる。「世界農業遺産」が設定された背景には、近代農業の行き過ぎた生産性への偏重が、世界各地で森林破壊や水質汚染等の環境問題を引き起こし、地域固有の文化や景観、生物多様性などの消失を招いてきたことが挙げられる。国連教育科学文化機関(UNESCO)が提唱する世界遺産が、遺跡や歴史的建造物、自然などの不動産を登録し、保護することを目的としているのに対し、「世界農業遺産」とは、さまざまな環境の変化に対応しながら進化を続ける「生きている遺産」なのである。「GIAHS」の認定基準は、次の5つの柱からなる。①知識システムおよび適応技術、②食料と生計の保障、③生物多様性と生態系機能、④文化・価値観と社会的組織(農文化)、⑤優れた景観と土地・水管理の特徴。平成25年(2013年)7月現在、次の世界25ヶ所が指定され、日本はその内5ヵ所となっている。