阿波世界農業遺産

剣山系の伝統的な危機管理システム

・世界的な人口増加、人間の経済活動に伴う地球温暖化、森林破壊などが原因の一端となり、世界的なに異常気象が続いている。剣山系では、食料危機や災害など、突発的な事態に直面し、平地部との交流が途絶えても自給自足が可能なシステムが機能している。剣山系は非常時を想定した知恵に満ちている。それは、約3,000年間の気候変動や天変地異に耐え、幾多の失敗や経験を糧に構築された深い知恵と思想に基づくもので、それは集落維持に関わる危機管理システムなのである。

1.卓越した保存食を作る文化

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※民家の軒に干された大根(貞光字中山)
・多種多様な農作物栽培と多様な保存食を作る文化が発達しているため、平野部との交流が途絶えたり、突発的な天変地変や異常気象に見舞われても困ることはない。


2.破砕帯を利用した水資源利用技術と涵養林を残す知恵

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※破砕帯から民家に引かれた水汲み場(一宇字河内)
・剣山系では、破砕帯を利用し、必要な分量の水を取り込む生活や傾斜地農業が展開されている。また、湧水を絶やさないため、山上に涵養林を残し、水資源を確保している。

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※水資源を守る周囲の涵養林(一宇字明谷)


3.民家・神社・御堂の周囲に食料供給が可能な樹木を残す知恵

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※民家の一角に残された山ナシの古木(つるぎ町一宇)


4.標高差利用農業

・剣山系では、標高差が最大400mにもなる傾斜地集落が発達している。リレー式農業と形容される播種時期と収穫時期の相違が、天変地異や異常気象等による農作物の全滅を防いでいる。
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※標高差の大きい大野集落(つるぎ町一宇)


5.相互扶助の慣行「手間替え」と「おすそわけ」

・剣山系の各集落では、生活・農業全般において、伝統的な相互扶助(互助システム)の慣行が現在でも残されている。農作業は「手間替え」と呼ぶ互助体制で行う。「助け合い」と「分かち合い」の精神の醸成には、神社の祭礼、御堂の行事等が深く関わっている。
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※集落内の一体感を醸成する「御堂」行事


6.混植農業

・剣山系では、一定区画の畑地に一種類以上の農作物を混植で栽培している。よって、突発的な天候異変等が起こっても、農作物が全滅し食糧不足に陥る危険性が回避できる。
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※多様な作物が植えられた畑地(東みよし町泉野)


7.自家採種による「種」の確保

・剣山系では、多くの農家で焼畑農業を継承する雑穀や伝統野菜の類が自家採種されている。種を確保していれば、食糧危機に陥る心配はない。
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※自家採種されるトウキビ


8.冬場の食料備蓄体制

・剣山系では保存食を作る干物文化や、冬場に備え、家屋の床下に芋穴を作り、サツマイモなどを保存する農文化が広く普及している。ライフラインが途絶えても、多くの農家で半年程度は大丈夫だと話すのが剣山系なのである。
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※軒下の芋穴(神山町神領字谷)


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