伝統習俗編等-写真展２

川島神社の忌部の「七十五膳」の神事

・吉野川市川島町の「川島神社」の元社はかつて善入寺島（粟島）にあり、天日鷲命を祀る「浮島宮」であった。その10月22日の例大祭には、県下で稀な｢七十五膳の神事｣が行われる。これは、神饌台に忌気で調整した七十五品（山の幸・川の幸・海の幸・里の幸）の供物を、宮司や氏子総代の手によって神前に捧げるというもので、吉野川市山川町「川田八幡宮」、美郷の「平八幡神社」の「七十五膳の神事」と合わせ、「忌部の神事」の一つと考えられている。七十五膳の神事は、土地の豊かさを示す指標であり、供物の多様性が山里・里山・川里・海里の一体化を示している。

旧美馬郡・麻植郡の「竹矢来」の習俗

・旧美馬郡（美馬市・つるぎ町）・麻植郡（吉野川市）の吉野川流域では、秋の祭礼の際、当家となる家の軒先に「竹矢来」と呼ばれるしつらえを作る慣習がある。河川敷で伐ってきた青田竹を矢来に組み、その内側に祭壇を設け、御幣・神社の掛軸・神饌などを祀る。また、矢来の両端の先頭に葉を残した長い一対の笹竹を立てる。これは、矢竹に神を招く依代とする思想によるもので、他県に前例がない古習となる。これらも、豊穣を感謝する農村文化の一つであり、阿波ならではの習俗であり興味深い。

世界に誇る阿波の農村舞台①

・江戸時代の末期頃より阿波の県南部を中心に、集落の鎮守となる神社境内に、農村舞台が作られた。そして、豊作祈願や豊穣祈願の秋の例祭に、供物や歌舞などの芸能を奉納した。阿波の農村舞台では、村人が春秋の祭りの奉納芸として人形浄瑠璃を上演した。その舞台は、村人の集会場や酒盛りの場ともなった。テレビなどない時代、阿波では農民がすべてを忘れて歌舞を楽しむ当時世界でも稀な文化が根付いていた。調査報告によると、全国には、1921棟の農村舞台が存在するが、徳島県は240棟と全国最多を誇る。全国的には歌舞伎の舞台が多いが、阿波では239棟が、浄瑠璃を語る太夫座のついた人形芝居系の特徴をもち、全国の人形芝居用の舞台の約97％が集中していることが判明した。阿波は、かつて集落ごとに劇場をもち、人形浄瑠璃をはじめ様々な芸能を鑑賞し自らも楽しんでいた世界屈指の劇場王国であった。その後の調査では、136棟の現存舞台と129棟の改善舞台、43棟の廃絶舞台が確認された。
・現在は、この農村舞台のある地域の文化資源を保存・活用し、地域活性化を目的に特定非営利活動法人「阿波農村舞台の会」が設立されている。写真は、神山町神領字小野の小野さくら野舞台の風景（須恵泰正氏の提供）。この鎮守の森思想と一体化した舞台、自然と一体化した舞台は世界に類例がなく、ＦＡＯだけでなく、ユネスコに世界無形文化遺産として広く世界に紹介すべきであろう。

阿波の農村舞台②　－日本最大の農民劇場王国－

・阿波は、農村舞台の存在から、日本最大の農民劇場王国・芸能王国であったのだが、この芸能は神に奉納するもので、舞台は神社の本殿から見える位置にある。その規模は、間口９m、奥行き５．４mが平均。また、舞台右側に対し、30～40度の角度で内向きとなった大夫座が付設され、太夫や三味線が演奏する。舞台前面には人形遣いの下半分を隠し、人形の足が地面の位置に見えるようにする可動式の蔀帳がある。舞台両側の柱の奥には、襖絵を保管する物置がある。また、舞台下に舟底型の楽屋があるものもある。写真は、三好郡東みよし町東山字法市の農村舞台。

阿波の農村舞台③　－劇場王国と襖絵カラクリ－

・農民劇場王国、芸能王国の阿波の農村舞台の舞台装置として注目すべきなのが、全国に珍しい「襖絵」と襖カラクリである。それは、舞台の背景画をカラクリ仕掛けで変化させていく手法で、最も多い「引き分け」という手法の場合、6～8枚の襖絵を左右に動かし裏にセットされた別の絵を次々に見せていく。千畳敷では襖絵を奥へ奥へと開け、遠近法で描かれた千畳敷の御殿を出現させることもできる。その他、行き違い、チドリ、回転、上昇など約10種類のカラクリ仕掛けがある。神山町では、172組、1459枚が残り、77組731枚が町有形文化財に指定された。この襖カラクリは人形浄瑠璃芝居の背景として描かれた襖絵をさまざまに変化させることで出し物の一つとして発展してきたもの。この多彩に襖絵の文化が華麗に使われたのは阿波だけ。しかも、その題材は自然を題材にしたものが多い。阿波の農民の文化水準の高さは、まさに世界的であり、ユネスコのみならずＦＡＯにも紹介し、その意義を世界的に評価させるべきであろう。
（写真は神山町郷土資料館に保存されている襖絵）