阿波世界農業遺産

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)

・剣山系では、気温の寒暖差に加え、谷間より吹き上がる上昇気流、豊富な日照量、冬場の剣山おろしとも命名される11月中頃から3月末までの乾いた冷風は、秋から冬場にかけ穀物・野菜・果樹類を干して乾燥させ、多種多様な保存食や健康食を作る農文化を育んだ。剣山系はいわば「干物王国」(保存・健康食王国)であり、仮に平野部から食料補給(ライフライン)が断たれても、半年以上でも生きられると農家は口を揃えて語る。それは、卓越した伝統的な危機管理システムが今でも機能している証でもある。「干す」意味は、水分を抜くことで長期保存が可能となり、「天日干し」することで、日本食特有の素材がもつ甘味や旨味(アミノ酸)が濃くなり、栄養価が増す。また、「逆さ干し」することで、一層養分がいきわたり、標高が高いため抗酸化力も強くなるのである。

・なお、干すために必要な伝統的な農文化が[ハデ]である。「ハザカケ」は、稲を干すために臨時に作られるものだが、剣山系では一年中常設の[ハデ]が農文化の特徴となる。[ハデ]は、民家基部の高石垣に沿って作られる。石垣の側は風通しが良く、輻射熱で乾燥がよく進むのである。剣山系の伝統的な干物文化は次の通り。
 〔穀物類〕コメ、アズキ、ダイズ、ソバ、アワ、ヒエ
 〔野菜・山菜〕切干大根、干し芋、干しズキ、干しゼンマイ、干しヨモギ、トウガラシ、タカノツメ、タマネギ
 〔果樹類〕干し柿、梅干し、干しイチヂク

・その他、「干す」ことで成立する各種産業や文化が残存し、剣山系の農村風景に豊かな彩りを与えている。
 〔各種産業〕和紙の楮干し、太布の楮干し、三椏干し、半田素麺の天日干しなど

[作成] 林 博章

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)1
※名西郡神山町上分字宇井の棚田とハザカケ風景

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)2
※つるぎ町一宇で干されたアワ

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)3
※つるぎ町一宇字剪宇のハデに干されたアズキ(1)

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)4
※つるぎ町一宇字剪宇のハデに干されたアズキ(2)

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)5
※美馬市穴吹町西谷のハデに干されたアズキ(1)

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)6
※美馬市穴吹町西谷のハデに干されたアズキ(2)

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)7
※つるぎ町一宇字広沢のハデに干されたダイズ

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)8
※三好市東祖谷字林のハデに干されたソバ(1)

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)9
※三好市東祖谷字林のハデに干されたソバ(2)

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)10
※つるぎ町一宇字大野のハデに干された切干大根

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)11
※つるぎ町一宇字河内のハデに干された切芋

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)12
※つるぎ町一宇字剪宇で、連で吊るされた干し芋

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)13
※つるぎ町一宇字剪宇で干された干しズキ(里芋の茎)

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)14
※干さされたトウガラシ(つるぎ町一宇字剪宇)

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)15
※つるぎ町一宇字木地屋で干されたゼンマイ(日本一の生産)

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)16
※干しシイタケの原木栽培(三好市山城町柿野尾)かつては日本一の生産量

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)17
※ハデに吊るされた干し柿(つるぎ町一宇字赤松)

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)18
※軒先に吊るされたモロコシ(つるき町貞光字家賀)

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)19
※梅の天日干し(吉野川市美郷)梅は四国一の生産量

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)20
※太布の原料となる干された楮の皮

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)21
※阿波和紙の原料となる楮干し(吉野川市山川町)

剣山系は干物王国(卓越した保存食文化)22
※紙幣の原料となる三椏干しの風景(三好市山城町大川持)


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