阿波世界農業遺産

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術

・片理性の高い結晶片岩の性質を利用し、傾斜度を緩めるため地勢に応じ石垣を積み傾斜地農業を成立させている。この石垣技術は多岐に渡り、傾斜地集落全体の農地配置や保全・文化・利水に大きく関わっている。なお、剣山系の結晶片岩は他地域と比較してスレート状に割れやすい性質がある。

・この剣山系の石積技術が畿内へと技術移転され、畿内王墓の前期古墳の竪穴式石室に導入されたとみられる。畿内前期古墳では、徳島の結晶片岩が竪穴式石室の石材として選ばれた。京都では、竜安寺や松尾寺など多くの名勝庭園に用いられた。昭和30年代初頭には、世界的造形作家イサム・ノグチが青石を絶賛し、フランスまで青石を運搬。パリのユネスコ本部の庭園を造ったことで世界的に知られ、それには鮎喰川流域の神山町の青石が選ばれた。「大阪万博公園」の日本庭園にも、鮎喰川流域の青石が大量に用いられ、その変化に富んだ美しさは賞賛の的で、緑がかった[青]は、藍染めの[青]とともに徳島を象徴する色となった。農業だけでなく、剣山系の結晶片岩自体が貴重なブランドなのである。

・その石垣技術をまとめれば次のようになる。
(1) 傾斜面に沿って建つ民家基部に1~7mに渡り石垣を積み上げる技術。
(2) 城郭ようの反りと角面、最上部を競り出させる技術。これで石垣に草を生やさないようにする。恐らく日本最高の農民技術であろう。
(3) 傾斜度を緩めるために石垣を効果的に積む高度な技術。
(4) 石垣の輻射熱を利用して農業を行う技術。(石垣利用農業)
(5) 傾斜地に水路を作ったり、谷筋の両岸に堤防を作る技術。
(6) 石垣で山道、倉庫、多様な信仰物を作る技術と文化。
[作成] 林 博章

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術1
※美馬市穴吹町支納の高さ7mの民家基部の石垣。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術2
※つるぎ町一宇字剪宇の高さ7mの城郭ようの石垣。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術3
※つるぎ町貞光家賀下の民家基部の3段に連なる高石垣。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術4
※三好市井川町上正夫の急傾斜における石垣群。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術5
※つるぎ町貞光字西谷の急傾斜地における石垣段畑。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術6
※貞光字西谷の急傾斜石垣段畑とカヤ施肥による多様な作物栽培。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術7
※半田字長野の民家基部の高石垣と段畑、上部は茶畑。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術8
※三好市井川町落倉の30度傾斜の高石垣と段ごとに多様な作物栽培。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術9
※神山町阿野字折木の城塞のような石垣群。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術10
※吉野川市美郷の張集落における天上まで続く石垣群。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術11
※吉野川市美郷の高開の石垣。(文化庁指定文化的景観重要地域)

棚田の石垣

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術12
※三好市井川町の下影の棚田の石垣。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術13
※神山町神領字谷における石垣群。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術14 傾斜地農業を維持する高度な石垣技術15
※(左)吉野川市美郷字田平の民家基部の石垣、反りを持たせ最上部を競り出させている。
※(右)美郷字中枝の民家基部の石垣、反りと競り出しをもつ高度な技術。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術16
※美郷字中枝の旧民家基部の石垣、角面を合わせ反らせた技術は見事という他ない。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術17
※つるぎ町一宇字明谷の反りをもつ高さ4mの民家石垣。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術18
※つるぎ町一宇字明谷の競り出しをもつ高さ4mの民家高石垣。

水路や洪水防止のための石垣

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術19
※つるぎ町半田字黒石の谷沿いに築かれた石積堤防。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術20
※つるぎ町半田字坂根の谷沿いに築かれた石積堤防と傾斜畑。

石積で作られた信仰物や倉庫

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術21
※三好市井川町上吹の石積で作られた「地神さん」。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術22
※三好市井川町大久保の石積で作られた「石倉神社」。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術23
※石積で作られた石倉。(つるぎ町一宇字剪宇)

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術24
※石積で作られた石倉。(吉野川市美郷字東山)

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術25
※磐境(穴吹町宮内の「磐境神明神社」)日本最古形式の祭場。

傾斜地農業を維持する高度な石垣技術26
※石積神殿型の山頂に鎮座する「秋葉さん」。(神山町鬼籠野西分)


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