阿波世界農業遺産

剣山系は、樹皮繊維を利用する農産業の宝庫

・剣山系では、[榖][楮][三椏][麻]など、少なくとも約1,200年以上前からの古代技術を継承した樹皮繊維を利用する洗練された照葉樹林文化の農文化や産業が残存している。剣山系は食糧の自給だけでなく、「繊維」や「紙」も自給できる技術が現存する世界的な地域で、今後、新産業技術との融合で新たな生命産業が生まれることになるだろう。

1.阿波和紙
・剣山系を拠点地とした阿波忌部は、天日鷲命を祖神と仰ぎ、麻・榖・楮を扱い製紙づくりを行い、日本各地に製紙技術を伝播したと伝わり、その歴史は少なくとも1,200年以上に遡る。その製紙技術は、阿波和紙として継承され、吉野川市山川町に「阿波和紙伝統産業会館」が建設され、館内で作品の展示、製造工程の見学、和紙作りの体験学習ができるようになっている。阿波和紙は、明治23年(1890年)に、パリ万博・シカゴ万国博覧会で出展し、賞状授与も受け、世界にその名を響かせた。昭和45年(1970年)6月に、この技術は県の無形文化財に指定された。2013年には、アワガミ国際ミニプリント展が[いんべアートスペース]を会場に開催され、39の国と地域から約950点が集まった。

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※吉野川市山川町の阿波和紙伝統産業会館

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※日本の紙祖となる天日鷲命
 
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※阿波和紙の原料の一つとなる楮の皮干し風景

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※和紙会館での紙漉の作業風景

2.白妙織(しらたえ)
・阿波忌部が美馬市穴吹町首野で榖・楮で織った[木綿](ゆう)織物の別名は「白妙」(しらたえ)と呼ばれる。首野の人々は「しらたえ工房」を建て、機織を置いて[しらたえ]を作り、その伝統技術を保存するための取組が続けられている。この技術は、阿波市でも保全されている。

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※穴吹町首野のしらたえ工房の風景

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※しらたえの原料となるカヂの繊維

3.木綿織(ゆうおり)
・美馬郡つるぎ町を拠点とした阿波忌部も、榖・楮で木綿(ゆう)と呼ぶ織物を作っていた。その名称は、木綿麻川(貞光川)、木綿麻山(友内山)の名称に付けられ、木綿を織る伝統は阿波市で継承される。国登録文化財「織本屋」(旧折目家)の中に機織機と織物が展示されている。この木綿(ゆう)も1,000年以上の歴史をもつ。その技術は阿波市で技術が保全されている。

4.太布織(たふおり)
・剣山系の榖・楮で作る古代織物を唯一継承しているのが那賀郡那賀町木頭に伝わる「太布」である。『古語拾遺』(807年)には、「阿波忌部が榖(かぢ)や麻を植え木綿(ゆう)や麻布などの繊維や織物をつくり、大嘗祭に貢進した。」とあるが、この「木綿」に該当する織物の一つが[太布]となる。この文化を守ろうと、阿波太布製造技法保存伝承会が昭和59年(1984年)に設立。平成13年秋には、木頭和無田に「太布庵」が竣工され、その文化が継承されている。

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※太布を織る作業風景

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※太布を織る作業風景

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5.三椏(みつまた)の栽培
・剣山系は、日本を代表する高品質な三椏の産地である。剣山系の三椏は、紙幣に使用されるため、一定量を大蔵省印刷局が購入し、農家の換金作物となっている。

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※三椏の皮干し風景(三好市山城町白川)

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※三椏の栽培風景(美馬市穴吹町梶山)

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※三椏の栽培風景(三好市山城町西宇)

6.タカキビとホウキグサで作るホウキ
・つるぎ町や三好市などでは、タカキビやホウキグサの茎と穂でホウキを作る伝統工芸人が数多くいる。収穫されたタカキビやホイキグサは、天日干しされ、手作りホウキとなる。それは、何年使用しても擦り減らず、収集効果も高いことで人気が高い。それは、剣山系の焼畑農業を継承する伝統的な農文化の一つでもあった。

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※ホウキグサで作られた自家製のホウキ(つるぎ町一宇)

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※自家採種されるホウキグサ

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※タカキビで作られたホウキ(つるぎ町一宇字木地屋)

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※タカキビで作られたホウキ(三好市山城町白川)

[作成] 林 博章

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