阿波世界農業遺産

傾斜地農業におけるカヤを施用する意味

・カヤを採取するカヤ場(採草地)は、剣山系では伝統的に[肥場][肥野][肥山]と呼ばれ、古代からの用語が継承され、カヤ等を施用する農業が現在でも営まれている。カヤ場(採草地)を維持・管理・利用することこそが、傾斜地農業を成立させる基盤となる。カヤ場は、個人持や共有地として管理されている。カヤは、棚田・穀物・野菜・果樹・茶・山菜などの農作物の栽培に施用され、地勢や作物ごとにカヤ投入技術も異なる。約3,000年にわたる伝統農業の経験における知恵と技術が重層的に集積なされたと見え、カヤの施用の意味は、非常に奥深いものがある。その意味を整理すれば、日本のみならず世界各地の有機農業に技術や知恵の移転と応用ができるであろう。カヤを施用する意味を、農家から直接聞き取り調査した情報から整理すれば、次のようになる。
(1) 土壌流出を防ぐ。
(2) カヤで土の表面を覆い雑草を抑える。現代のマルチ農業の原点となる技術。
(3) カヤを漉き込まず、地表面に覆うように敷いて表面堆肥にする。これで、カヤと耕土間は湿度が高く発酵状態となり、作物の成長に友好的なミミズ・小虫・微生物などの宝庫になり、生物多様性も保障される。
(4) カヤを敷けば、地面に保水力をもたせることができる。
(5) カヤを耕土に敷けば、耕土への直射日光を防ぐことができる。冬は保温効果、夏は冷やす効果をもち、農作物の成長を保護している。
(6) カヤはケイ酸を多量に含み、持続的に耕土に漉き込めば、良質の有機堆肥となる。
(7) カヤを耕土に敷けば、種が飛び散らない。
(8) カヤ場(採草地)は、風除けの役目をもち、害虫が寄り来るのを防ぐバリア(障壁)となる。
(9) [現代的意味]カヤの生える[肥場]を維持することは、大気中の CO2 の固定化につながる。
(10) [農業以外の用途]カヤ束をハデに立て掛け、風除けの「門垣」とする。萱葺き屋根、神事にも利用される。
(11) [カヤ以外に施用される有機物]広葉樹の落葉、ワラビ、ゼンマイ、イタドリの若いもの、アワ、コキび、モロコシの茎、芋のつるなども作物の種類に応じ効果的に施用される。
[作成] 林 博章


傾斜地農業におけるカヤを施用する意味1
※カヤを入れることで土壌流出を防止する。(つるぎ町一宇字大野)

傾斜地農業におけるカヤを施用する意味2
※カヤで耕土を覆い雑草を抑える。(美馬市穴吹町馬内)

傾斜地農業におけるカヤを施用する意味3
※カヤ施肥の下は高温で湿気が高く、微生物や昆虫の宝庫、カヤは表面堆肥となる。(穴吹町馬内)

傾斜地農業におけるカヤを施用する意味4
※カヤを施用した土壌の下は、ミミズの宝庫。(美馬市穴吹町西山)

傾斜地農業におけるカヤを施用する意味5
※切カヤを入れた耕土。カヤはケイ酸を多量に含む。(美馬市穴吹町田方)

傾斜地農業におけるカヤを施用する意味6
※カヤが漉き込まれた耕土。カヤはケイ酸を多量に含む。(つるぎ町半田字蔭名)

傾斜地農業におけるカヤを施用する意味7
※カヤと落葉を入れれば、有用菌が発生し作物の成長を促す。(美馬市穴吹町西山)

傾斜地農業におけるカヤを施用する意味8
※カヤを畑地の間に置けば、害虫などを防げる。(美馬市穴吹町田方)


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