阿波世界農業遺産

阿波の自然循環型伝統農法

「コエグロ」とカヤ利用農法

  • 旧麻植・美馬・三好・名東・名西郡などでは、畑に投入する肥料となる[カヤ]の束を[コエグロ](肥えグロ)、[カヤ]が採れる山などの採草地を[肥え山]と呼んだ。このカヤを農業に利用する農法は注目すべきである。それは、温暖で降水量の多い阿波の山間部ならではの文化としての呼称である。なお、肥料としては、カヤだけでなく、草木の緑肥や落葉なども投入された。それは自然循環型の有機物を利用する伝統農業でもあった。

カヤ利用農法について

  • 9月の秋頃、ススキの穂が出る前に集落上の共有地や周辺にある萱場の萱を刈り、コエグロと呼ぶ萱帽子をつくる。その萱場からの刈り取り作業は家族単位、村の協同作業で行われ、時には一山を越え背中に負って運び込まれた。そして、コエグロを作り保存して、春になれば畑に播いて肥料とした。萱は牛の飼料ともなり、小さく裁断して牛の糞と混ぜて発酵させれば極めて良質の堆肥となった。この刈草は肥料になったからこそ「肥(こえ)」と呼び、萱が採れる山は「肥え山」と呼んだ。

●カヤ利用農業の効用

①高地性傾斜集落は畑も傾斜しているので、萱を敷くことで土壌流出を防ぐことができた。

②萱で土を覆えば雑草を抑えることにもつながった。

③水分の保湿面でも抜群の効果があり、萱地の下は水気が十分で、ミミズや小虫、微生物の宝庫となった。

④畑と畑の間に萱場を設ければ、風除けの役目も果たし、害虫が寄り付くのを防ぐバリア(障壁)ともなった。

⑤萱葺屋根に使用された萱を再び畑に散布して肥料にすれば完全リサイクルとなった。

⑥茶畑などでも畝と畝の間に大量に萱を敷き詰め、それを人が踏めば[踏肥]となった。

⑦萱に加え、里山で大量に拾い集めることができる広葉樹の落葉や腐葉土も肥料として畑に投入された。落葉や腐葉土には作物の成長を促進させる有用的な菌が大量に存在し、特に吉野川南岸の山間部のように温暖で降水量が多く鉱物資源が豊富な地域では、菌の繁殖力が強い良質の作物ができた。

⑧カヤはケイ酸などを多量に含むので作物の成長を助ける存在となった。

⑨弥生以来の刈敷技術の中で一番施肥効果の高い[萱・草木・落葉]を依代に、その山の霊威(山の神)を畑や田に移すという観念を背景とした農業であった。それは、[森林農業]を行う[山の民]なればこその発想で、深い自然循環思想の賜物であるということができる。

⑩コエグロの原点は、縄文期の竪穴住居にあると見られ、縄文農法と呼ぶべきである。

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